第17回大阪アジアン映画祭(2)セールス・ガール|The Sales Girl



2021年のモンゴル映画で、海外(モンゴル国外)初上映となる『セールス・ガール』を鑑賞しました。

日本ではモンゴルの映画を見る機会がほとんどないし、そもそもモンゴル関連のニュースもあまり流れないので、モンゴル=草原と馬、みたいなイメージがまだ強いのではないでしょうか(小学校の国語の教科書に『スーホの白い馬』ってお話がありました)。あるいは、大相撲の力士の出身地。

その思い込みが覆されたのが、2018年の釜山国際映画祭で出会った『They Sing up on the Hill』という現代モンゴルの映画。

高層ビルが並ぶ大都会ウランバートル。そこから少し離れると「いかにも」な草原が広がっている、風景のギャップ。若いミュージシャンたちの物語でしたが、彼らが演奏するロックやポップスと、その上の世代の人たちが親しんでいる伝統的な歌曲の対比も印象的でした。上映後のQ&Aで、イギリス人のプロデューサーが「モンゴルの人はたくさんの歌を知っていて、音楽が生活の身近にある」と話していたことも記憶に残っています。(その時に書いたブログはこちら

『セールス・ガール』も、They Sing〜といくつか類似点があります。時代設定が現代であること。舞台はウランバートルだが、その周辺(地方)との差についても少し触れられていること。若者が主人公であり、新旧世代の交流が描かれること。

原子力工学を学ぶ女子大学生サルウルは、怪我を負った友人の代わりに、アダルトグッズショップで短期間だけ働くことに。ショップオーナーとの出会いや、顧客とのさまざまなやりとりを経て、未知の世界を体験し成長していくグローイング・アップ・ストーリー。

サルウルの両親は、彼女が幼い頃に地方からウランバートルに移住しており、父親は働いていないように見えるけど元はロシア語の教師(なので、サルウルもロシア語を少し理解する)、母親はミシンで布の上履き(?ルームシューズみたいなやつ?)を作り市場で売っています。裕福ではないけれど極端に貧しくもない、庶民的な生活に見えました。モンゴルで子どもを大学に通わせるのがどのくらい経済的な負担なのか、調べてみたのですがちょっとわかりません。

サルウルは本当は絵を描くのが大好きで、自分の部屋でも油絵(たぶん)を描きながら眠りにつき、大学の授業中もノートにスケッチばかりしている。よく大学合格できたね〜と思うけど、アダルトグッズショップの仕事もすぐ覚えてたから、きっと記憶力と頭の回転がいいんだろうなと思う。演じている俳優さんも魅力的で、途中から前髪をアップして垢抜けた雰囲気になると、BLACKPINKのジェニーみたいでした。

コミカルな笑いも随所にあるハッピーエンディグな話、悪くないけど心から好きとも言えず。「若い女性の成長物語を、男性の監督が撮る」のは、慎重に、ていねいにやってほしいという思いがあります。都合のいい女性像にされたくないという気持ち。特に「性的解放」なテーマが絡む場合はなおさら。

サルウル役には演技経験の浅い、実際の学生が起用されたそうですが、劇中には全裸に近いシーンもあり、事前の説明と納得を経て撮影されたものと信じたい。

監督のインタビューによると、「性」は誰もが興味を持つことなのに、モンゴルでは隠すべきものとなっている、一方、東欧を訪問したときには、アダルトグッズショップが日常風景の一部としてあったことから本作の着想を得たと。主人公に監督自身の学生時代を重ね合わせながらキャスティングしたという発言もあり、男子学生ではなく女子学生の物語になった理由を、わたしなら聞いてみたいかな。

ミステリアスなショップオーナー、カティアのほうが年齢的にはわたしに近いのですが(映画祭のサイトに元バレリーナって書いてあるけど、劇中でそんなセリフあったっけ?)、別れや喪失など「いかにも」な過去の設定はやや暑苦しく感じてしまった。存在感のある俳優さんだったから、そのまま佇んでいるだけで彼女の孤独は伝わった気がする。

70年代、ピンクフロイド、犬(野良犬)、自ら命を経った女性の存在など、何かの暗喩だったのかもしれませんが、モンゴルの歴史や文化、特にロシアとの関係性などの知識がないので考察するまで至っていません。

話題がそれますが、国立民族学博物館で特別展「邂逅する写真たち モンゴルの100年前と今 100 Years of Mongolia」がもうすぐ始まります(3/17〜5末まで)。関連イベントの「ヒップホップから見た現代モンゴル社会」上映会は迷っているうちに定員に達してしまったんですが、モンゴルの「いま」を見るヒントにつながりそうで、楽しみにしているところです。

セールス・ガール The Sales Girl
2021年/モンゴル
監督:JANCHIVDORJ Sengedorj 監督のインタビューはこちら