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今回のアジアン映画祭で「是非ともこれは見ておきたい」と思った唯一の作品が『海辺の彼女たち』でした。技能実習制度でベトナムから来日した若い女性たちの物語。フィクションですが、ナレーションや劇中の音楽(劇伴)がなく、ドキュエメンタリーのように進みます。
外国人技能実習制度の実態について初めて知ったのが、NHKの「ノーナレ」という番組でした。取り上げられていたのは地方のタオル縫製工場でしたが、日本のものづくりを応援したくてそのブランドのタオルをわざわざ買っていた私にとって、現場で起きている酷い人権侵害は本当に衝撃で、強い悲しみと怒りを覚えました。
映画では、もともとの受け入れ先企業から逃げ出してきた3人の若いベトナム人女性が、ブローカーを頼って雪国の漁港へとやってきます。新しい職場で働き始めるもまた苛酷な環境で、そのうち1人が体調を崩したことから物語が動いていきます。到底ハッピーエンドでは終わらんだろうという雰囲気と、私自身も地方の雪国で6年間生活した経験があり「あんな軽装で1日歩き回ったら、どれほど寒さがしみるだろう」と身体感覚的に想像できて、見ていて辛い作品でした。
体調不良が続いていたフォンちゃんが、ある覚悟を決めるラストシーン。決意とも、諦めとも言えるその覚悟を決めた瞬間にふっと自分が空腹だったことに気づき、ご飯を食べ始める彼女の姿には胸がぎゅーっとなります。
この1〜2年の間に、外国人技能実習制度の問題に関する報道を目にすることが増えたように思いますが、コロナ禍で一層酷い状況になっている様子がとても心配です(コロナ給付金10万円の一部を、実習生の支援に取り組むNPOに寄付させてもらいました)。本作も2021年のゴールデンウィークから全国の映画館で順次一般公開されるそうです。重たいテーマですが、現代日本を生きるすべての人に見られるべき映画だと思います。
これは「彼女たち」の話ではなく、私たちの側の話だよね。
『海辺の彼女たち』
2020年/日本・ベトナム
監督:藤元明緒
◎予告編動画はこちら
◎参考
第33回東京国際映画祭『海辺の彼女たち』Q&A
NHKノーナレ|2019年6月24日放送『画面の向こうから』
今治タオル工業組合| NHK「ノーナレ」報道についてのご報告
日本経済新聞|技能実習生かなわぬ帰国、逃げ込んだ工場がコロナ破産