第10回カンボジア国際映画祭(8)人間として最も価値のある仕事

プノンペン3日目。この日は17時過ぎの飛行機で日本へ帰国予定でした。初めてのカンボジアだったこともあり、最終日は観光に充てようと思っていました。

朝食は奮発してマリスへ。3種類あるセットメニューから、カンボジアン・ブレックファストを選ぶと、豚肉と海老が入ったヌードル(米麺)に、
温かいお茶、フレッシュオレンジジュース、アイスミルクコーヒーがついてきて、お腹いっぱい。ミルクコーヒーは結構甘くて(練乳が入っていて、これがカンボジアのスタイルらしい)、2〜3口でギブアップ。



レストランの中庭を眺めながら、さてどこに行こうかと考えます。王宮やお寺もいいけれど、前日に見た映画の影響もあり、クメール・ルージュの歴史を辿ってみようと思いました。



まず訪れたのは、トゥール・スレン虐殺博物館。もとは高校の校舎だった建物が、政治犯収容所として、恐ろしい粛清の拠点となった場所です。入場料と日本語音声ガイドのレンタル料をあわせて8USドル。音声ガイドはたくさんの言語で用意されていて、団体ツアーの外国人観光客もよく見かけました。



拷問に使われていた部屋や器具、脱走を防ぐための有刺鉄線が生々しく残されていました。15,000人以上が収容され、その中には10歳に満たない子どもも。生き残ったのはわずか7人。
当時の様子を描いたイラストに、実際の収容者は裸同然だったが、敬意を払って下着姿の絵にしたという説明があり、胸がぎゅっとなりました。女性にはさらに性的な嫌がらせや暴力。人間が持つ残忍さの最も酷い形に背筋が凍る思いがします。



その次に向かったのは、キリング・フィールド。キリング・フィールドとはつまり処刑場のことで、カンボジア全土に300ヶ所以上あったと言われています。
入り口正面に立つ慰霊塔には、亡くなった方々の遺骨や遺品が収められていました。頭蓋骨にはそれぞれ識別のためのシールが貼られていて、性別、年齢、処刑のされ方(薬品か、竹の槍か、鉄の斧か。耳が切られたかどうかも)などがわかるようになっています。


赤ん坊の頭をそこに打ちつけて命を奪ったという「キリング・ツリー」や、叫び声をかき消すためにスピーカーをぶら下げたという「マジック・ツリー」(写真)など。



私が訪れたプノンペン郊外チュン・エク村のキリング・フィールドは、市内中心部からトゥクトゥクで片道30〜40分くらい。1日あれば、虐殺博物館とキリング・フィールドの2ヶ所をじゅうぶん見て回ることができるので、プノンペン訪れるかたには"MUST SEE"としておすすめしたい。どちらも日本語音声ガイドの解説が大変わかりやすかったです。

カンボジアの痛みと悲しみの記憶をこの目で見ることができ、日本に戻ったら本や映画であらためて学び直したいと思いました。

拷問や虐殺、差別、奴隷として相手を支配することが、人間として最も醜く残虐な行為なら、こういった過去の過ち、負の歴史を直視し語り継ぐことは、人間が人間として生き、進化していくための、もっとも価値ある仕事のひとつかもしれません。