第24回釜山国際映画祭(10)Through Ernesto’s Eyes(Aos Olhos de Ernesto)|ぶあいそうな手紙

釜山で最後に見たのが、ブラジルの長編ドラマ『Through Ernesto’s Eyes』。これが本当に素晴らしくて、チケット余ってたのが奇跡だ!と感動するくらい。映画の神様ありがとう(笑)。

舞台になるのは、ブラジル南部の(南部の、というのは上映後のQ&Aセッションで監督から聞いたお話ですが)とあるまち。古いアパートメントに一人で暮らす78歳のエルネスト。アパートの前で偶然出会った若い女性・ビアとの交流が、エルネストの日常に大きな変化をもたらす。

老齢のエルネストは視力に問題を抱えており、大切な人から届いた手紙をビアに代読してもらい、返事も代筆してもらうことになる。手紙のやりとりがスペイン語でされていたことから(ブラジルの公用語はポルトガル語)、物語の途中、彼がウルグアイからの移民であったことが明かされていく。エルネストの隣人で、同じく老齢のハビエルは耳が遠く、そのことが悲しい出来事につながってしまう…とサイドストーリーの組み立ても丁寧。

私が字幕を読み間違えていなければ、エルネストは「46年間ずっと」同じアパートに住み続けているという設定。そこでウルグアイ(ウルグアイ東方共和国)の歴史を調べてみたところ、1973年に軍事独裁政権が誕生し、85年まで続いている。当時、約50万人が国外に移住したともいわれ、映画の中では詳しく語られませんが、エルネストが故郷と過去に対して複雑な思いを抱いていることが想像できます。地図を見ると、エルネストが暮らすブラジル「南部」は、ウルグアイやポルトガルとの国境に接しています。

一方、ビアはビアで複雑な背景を持っています。彼女もまたエルネストとの出会いにより、人生の舵を大きく切ることになるのです。

老いからくる体の不調や孤独、複雑な過去、複雑な環境。そう書くと一見重たい作品のようですが、コミカルな描写が多い。人生の一歩を踏み出すのに年齢は関係ない。そんなテーマにも勇気づけられるドラマで、日本で一般公開しても人気が出ると思うな。

Q&Aセッションで印象に残ったのは、ブラジルでは現政権が芸術・文化の振興や教育の充実に全く興味がなく(嗚呼、他人事とは思えない)、映画業界にとっては逆風の状況になっているというお話。後から調べてみたところ、今年(2019年)1月に就任した新大統領は「ブラジルのトランプ」なんて呼ばれている人らしい。

日本から見て、地球の反対側にあるブラジルの映画は、日本では決して数多く公開されるほうではありませんが、人生ベスト10に入れたいぐらい大好きな『セントラル・ステーション』、衝撃の『シティ・オブ・ゴッド』、直近ではティーンエイジャーのせつない恋を描いた『彼の見つめる先に』など、素晴らしい作品がたくさん。映画祭の締めくくりに、こんなに素敵な映画に出会えたことが本当に嬉しいです。

Through Ernesto’s Eyes(Aos Olhos de Ernesto)
2019
Brazil
Director:Ana Luiza Azevedo

◎参考
Aos Olhos de Ernesto - TRAILER EngSub on Vimeo(英語字幕付き予告編動画)

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CNN|「熱帯のトランプ」、ブラジル大統領が訪米 ホワイトハウスで首脳会談

◎追記しました
2020年7月、『ぶいあそうな手紙』という邦題で日本で公開されています!
『ぶあいそうな手紙』公式サイト
予告編
アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督メッセージ動画