第20回全州国際映画祭(12)My Name is KIM Bok-dong

映画祭2日目の朝に見たのは、元従軍慰安婦として証言活動を続けてこられたキム・ボクドンさんのドキュメンタリー『My Name is KIM Bok-dong』。題材的に日本で公開される可能性が極めて低いだろう作品。チケットを予約したときから「必ず見なくては」という思いと、打ちのめされて立ち直れなかったどうしようという不安が入り混じった、複雑な気持ちがありました。




前日に鑑賞した『Goral’s Don’t Ride Cable Cars』もそうでしたが、ドキュメンタリーはドラマに比べてソールドアウトにはなりにくい模様。社会的なテーマを扱ったものは少し敷居が高いというか、ちょっと遠いものに感じられるのかな。この作品も満席ではなかったものの、7〜8割ぐらいは埋まっていたと思います。そして、映画祭全体に言えることですが、若いお客さんが多いのが嬉しいし羨ましいわ〜。

映画は、元慰安婦として名乗りを上げた当時、親族がみんな離れていったというボクドン(ポットンという発音らしいのですが、ボクドンと表記します)さんの回想から始まります。この時点でもう涙が止まりません。そこから過去にさかのぼる形で、活動の記録(映像)、ご本人や関係者のインタビュー、ガンと闘いながら毎週水曜日にソウルの日本大使館前でデモに参加し続ける直近の様子まで。私の両隣に座っていた方も、それぞれ涙を拭ったり、鼻をすすったり。

一方、日本の総理大臣の国会答弁や元大阪市長による記者会見、いくつかの団体によるヘイトスピーチの様子も、歴史修正主義者の姿として映し出されます。韓国まで送られてくる脅迫状や嫌がらせの手紙の山。怒りと恥ずかしさと情けなさで、胸がつぶれそうに…。

Q&Aセッションでは、英語通訳を希望する人間が私しかおらず、通訳さんが私の隣に座って対応してくださいました。通訳さんもおそらく泣いた後の鼻声だったし、登壇した監督も、時々涙で言葉を詰まらせながらのやりとりが始まりました。




会場からは、質問というより、映画を見るまでこの問題のことを詳しく知らなかった、ボクドンさんのことをこれからも忘れずにいたいという感想が、女性からも男性からも聞かれました。司会進行を担当していた男性が「Q&Aではなく、みんなでシェアする時間になりましたね」と。私は、この映画が他の映画祭でも上映される予定があるのか(全州の映画祭ではワールドプレミア)、一般の映画館で公開される予定があるのかなど尋ねてみたかったのですが、気持ちが高ぶって頭の整理のつかないまま(しかも通訳さんの関係で最前列に座っていたら、司会進行者から「もうそんなに泣かないでください〜」とツッコまれた)、質問時間が終了。

日本に帰ってから、ちょうど公開中の、これも慰安婦問題を扱ったドキュメンタリー『主戦場』を見に行ってきました。あちらが慰安婦問題の論争に焦点を当てているのに対し、ボクドンさんのドキュメンタリーは、息を引き取る直前まで、金銭ではなくただただ誠実な謝罪を求めていた、彼女の人生を伝えるものだったと思います。

たった一つの願いが叶えられないまま、今年1月、この世を去ったボクドンさん。辛く苦しい記憶を伝えてくださってありがとうございました。あなたのストーリーは、私のストーリーになりました。

My Name is KIM Bok-dong
2019
Korea
Director: SONG Won-geun

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